『GRIS』から『Neva』へ――。スペインの小規模スタジオが証明した「感情を設計する」という新たなゲームデザインの形。

2026年 2月 23日 | インディーゲームドットコム 編集部

ゲームは、言葉を介さずにどこまで深い感動を伝えられるのか。その問いに対する最も美しい回答を出し続けているのが、Nomada Studioだ。2018年の『GRIS』、そして2024年の『Neva』。この2つの作品は、インディーゲームの枠を超え、一つの「動く芸術」として世界中で愛されている。

■ 1. 偶然の出会いから始まった「異色」のチーム

スタジオの設立は、ある「お別れパーティー」がきっかけだった。

  • AAAの技術と純粋芸術の融合: Ubisoftで『レインボーシックス シージ』などに携わっていたベテラン開発者のアドリアン・クエヴァス氏とロジャー・メンドーサ氏。そして、広告やギャラリーで活躍していたイラストレーターのコンラッド・ロセット氏。
  • 脱・歯車: 大手スタジオのシステム的な開発から離れ、より個人的で創造的な表現を求めていた開発者と、自身の絵をゲームという媒体で表現したかった芸術家が意気投合し、Nomada Studioは誕生した。

■ 2. 『GRIS』:ゲームオーバーのない「喪失」の物語

3年の歳月をかけて開発されたデビュー作『GRIS』は、世界で320万枚以上を売り上げる大ヒットとなった。

  • アクセシビリティの追求: 「死」や「ゲームオーバー」を完全に排除。ゲームに馴染みのない人々でも最後まで体験できる設計は、既存のゲーム市場のターゲットを大きく広げた。
  • 多分野のクリエイター: 開発スタッフの約70%がゲーム業界以外(イラスト、映画、広告など)の出身。さらに、心理学者と協力して「悲しみの5段階」を叙事的に構成し、主人公の精神状態を色の変化で表現した。

■ 3. 『Neva』:親としての経験が育んだ「継承」の物語

2024年にリリースされた『Neva』では、新たに「戦闘システム」が導入された。

  • 守るための戦い: 開発のきっかけは、ロセット氏がパンデミック中に親になった経験だ。「子供を育てながら、かつて自分を守ってくれた親を今度は自分が支える」という世代間の感情が、主人公アルバと狼のネバの絆に反映されている。
  • 進化した評価: 2024年の The Game Awards で、スタジオ2度目となる「Games for Impact」部門を受賞。さらに2025年のBAFTA(英国アカデミー賞)でも芸術的達成賞を受賞するなど、その完成度は前作を超えたとの呼び声も高い。

Nomada Studio 作品アーカイブ

作品名リリース年主なテーマ受賞・実績
GRIS2018年喪失、回復、色の再生TGA 2019 Games for Impact 受賞
Neva2024年成長、親子、自然との共生TGA 2024 Games for Impact 受賞
Neva: Prologue2026年出会い、前日譚新エリア3箇所、高難度コンテンツ

■ 言葉を削ぎ落とし、余白に感情を託す哲学

なぜ、彼らのゲームにはセリフがないのか。 共同創設者のクエヴァス氏は、**「言葉をなくすことで、プレイヤーが自分自身の思考や感情を物語に投影する余白が生まれるからだ」**と語る。 また、音楽ユニット「Berlinist(バーリンニスト)」による劇伴も、単なるBGMではなく、パズルや物語の緊張感と有機的に連動する「ゲームデザインの一部」として設計されている。

編集部の視点

Nomada Studioが成功したのは、単に「画面が美しいから」だけではありません。彼らは「感情をプレイさせる構造」を設計しているのです。2026年2月にリリースされたDLC『Neva: Prologue』では、本編よりも高い難易度と新たな物語の断片を提示し、ファンを再びあの切なくも美しい世界へと引き戻しました。

「芸術的なゲームは売れない」という偏見を、圧倒的な実績で覆し続ける彼ら。次はいったいどんな「感情」を私たちにプレイさせてくれるのでしょうか。

Jaechung Lim

インディゲームドットコム編集長, 1990年代に「デジタルライフ」および「ゼウメディア」でゲーム専門記者としてキャリアを開始。その後、複数のマーケティング代理店、開発会社、パブリッシャーを経て、バンダイナムコグループにおいて10年以上にわたり、IPを活用したオンラインゲームおよびモバイルゲームの開発ならびにグローバル事業を主導してきたゲーム業界の専門家である。 現在は、国内外のインディーゲームに関するコンサルティングおよびメンタリングを行うとともに、数多くのコンテストや政府支援事業の専門審査委員として活動している。また、Indiegame.com を通じて、健全なゲーム文化の醸成およびスタートアップならびにインディーゲームの発展に尽力している。