Epic・Steamが販売拒否。不透明な審査基準がインディー業界に波紋。大手プラットフォームの「拒絶」は、創作への死刑宣告か。

2026年 2月 11日 | インディーゲームドットコム 編集部

イタリアのインディースタジオ Santa Ragione が開発したホラーゲーム**『Horses』**を巡る論争が、数ヶ月にわたり激化している。Epic Games Store と Steam が本作の配信を拒否した一方で、開発側とプラットフォーム側の主張は平行線をたどっており、業界全体を巻き込んだ「検閲論争」へと火がついた形だ。

■ 1. 「不適切なコンテンツ」という曖昧な壁

Epic Games のスティーブ・アリソン副社長は、本作が同社のポリシーに抵触すると述べ、成人向け(AO)指定に相当する内容が含まれていると判断した。 しかし、スタジオディレクターのピエトロ・リギ・リバ氏はこれに猛反論している。「Epicは具体的な理由を一切明かさず、どのシーンがどのようにポリシーに触れるのかも説明していない。モザイク処理を含め、必要な修正は行っているはずだ」と、不透明な審査プロセスを批判。創作の場における「透明性」の欠如を訴えている。

■ 2. 異様なる世界観:馬のマスクを被った全裸の人間たち

そもそも『Horses』とはどのようなゲームなのか。本作は約2時間の短編ホラーアドベンチャーだ。

  • 衝撃の設定: 馬のマスクを被った全裸の人間たちが、家畜として飼育・虐待されている奇妙な農場。そこで14日間働くことになった大学生アンセルモの視点を通じ、家族のトラウマや権威主義といった重いテーマをあぶり出す。
  • 独創的ビジュアル: モノクロのグラフィック、サイレント映画のような字幕、そして実写映像(FMV)が入り混じる超現実的な演出が特徴だ。

議論の焦点となったのは、幼い少女が「馬(に見立てられた全裸の女性)」に乗るシーンだ。開発側は「性的意図はない」としつつも、論争を受けて該当箇所を修正したが、プラットフォーム側の判断が覆ることはなかった。

「A24映画のような不気味さ」と評される独特のビジュアルスタイル。

■ 3. 「追放」の果てに得た1万8000人の支持

大手からの拒絶という逆境に立たされながらも、皮肉なことに騒動自体が強烈な宣伝となり、『Horses』は別の道を切り拓いた。

プラットフォーム対応状況備考
Steam / Epic販売拒否 (BAN)ポリシー違反(AO指定相当)を主張
GOG / itch.io絶賛販売中ベストセラーにランクイン
販売実績約1万8,000本純利益 約6万5,000ドルを記録

リバ氏は「騒動のおかげで注目された側面はあるが、Steamという巨大な窓口を失うことはインディーにとって死刑宣告に近い」と、プラットフォームの寡占がもたらす「自己検閲」の危険性に警鐘を鳴らしている。


編集部の視点

本作に対する批評家の反応は、「不快ではあるが、プラットフォームが主張するほど露骨ではない」という意見が大勢を占めています。映画や文学であれば「挑戦的な芸術」として認められるテーマが、ゲームという媒体ではなぜここまで厳しく排除されるのか。

映画界の『A24』作品がそうであるように、不快感や違和感を通じて深い内省を促す作品も文化には必要です。巨大プラットフォームが明確な基準なしに「門前払い」を続けるならば、ゲームは永遠に「安全なだけのエンタメ」に留まってしまうかもしれません。


「あなたの『不快感』は、プラットフォームが決めるべきものだろうか?」

『Horses』は現在、GOG、itch.io、および公式サイトで購入可能です。

Jaechung Lim

インディゲームドットコム編集長, 1990年代に「デジタルライフ」および「ゼウメディア」でゲーム専門記者としてキャリアを開始。その後、複数のマーケティング代理店、開発会社、パブリッシャーを経て、バンダイナムコグループにおいて10年以上にわたり、IPを活用したオンラインゲームおよびモバイルゲームの開発ならびにグローバル事業を主導してきたゲーム業界の専門家である。 現在は、国内外のインディーゲームに関するコンサルティングおよびメンタリングを行うとともに、数多くのコンテストや政府支援事業の専門審査委員として活動している。また、Indiegame.com を通じて、健全なゲーム文化の醸成およびスタートアップならびにインディーゲームの発展に尽力している。